生活行為ってなに?医療と介護の現場を近づけるマネージメントー

2017年05月15日

 最近、医療と介護の現場で「生活行為」という言葉をよく耳にするようになりました。この言葉から読み取れる最新のリハビリテーションの流れとはどういうものなのでしょうか?

 生活行為という言葉を聞いて、皆さんは何をイメージするでしょうか?ご飯を食べること、料理をすること、ゲームをすること(僕の場合はモンスト)、仕事をすること…具体的に普段行っていることが思い浮かんだでしょうか?

 作業療法の分野では、この生活行為を「作業」と呼んでいます。作業療法士が用いる「作業」という言葉は、個人や文化にとって意味や目的のある活動の総称を指します。このように書くと、ちょっと難しく感じちゃうかもしれませんが、先ほど記述したような行為のことです。


ーなぜ生活行為がリハビリテーションのトピックなのかー

 実は、作業療法に限って言えば、生活行為に着目してリハビリを行うことは、当たり前のことなのです。アメリカ作業療法士協会のガイドラインでは、作業遂行(生活行為を行うこと)の改善や役割の再獲得を作業療法の成果判定としなさいと書かれている程です。 

 しかしながら、病院等の医療現場で働く多くの作業療法士はこの生活行為に焦点を当てていなかったという残念な過去がありました。作業療法士が生活行為に焦点を当てていないのですから、他の医療職が生活行為に焦点を当てる機会はさらに少ないといっても良いでしょう。

 その背景を受けて、介護の現場で出てきた言葉が生活行為なのです。前回の介護保険の改定時に、生活行為向上加算というものが新設されました。そこで一気に注目が集まったのです。生活行為向上加算が新設された理由は、リハビリテーションの効果を活動と参加のレベルでしっかりと表すことを目的としています。


ー剥離する医療の現場と介護の現場ー

 病院は病気を治すところ、在宅/介護の現場は生活をするところ、とはっきりと分けて考えると、退院後の生活に支障をきたすケースが多くあります。退院後に「病院と同じリハビリをして欲しい」「手を動かす練習をして欲しい」という要望を耳にすることが多くありますが、そう言ったケースは、在宅生活が成り立たなくなりやすいケースだとも言えます。病院で機能面に対するアプローチしか行っていないからです。

 機能面に対するアプローチというのは、とても重要です。手が動くようになれば、足が動くようになれば、何でもできます。しかし、残念ながら脳卒中などの中枢性疾患の場合、一定の方に麻痺が残ります。

 一方で、生活をする力をつけるというアプローチもとても重要なのです。生活をする力を付けつつ、生活の中で機能回復を図るというのが一番理想的な流れだとも言えますし、実際にその方が機能回復を促進するという論文もあるくらいです。生活する力がないのに、在宅復帰はできませんよね。また、在宅生活の中で多く手を動かす機会を作ることで、発症から数年経っていても、徐々に機能が回復していくケースも多く認められるのです。


ー医療と介護の現場を近づける、生活行為という言葉ー

 生活行為という言葉に注目が集まって以来、病院で働く医療職の意識が少しずつ変わっているという印象を受けます。退院後の生活を具体的に想像し、患者さんが在宅復帰してから何をする必要があるのか、何をしなければならないのかを考えてアプローチする重要性に気づいてくれる作業療法士、理学療法士が増えています。

 生活行為という言葉を共通言語として、そこから患者さんの生活に何が必要か、どんなアプローチが有効なのかをしっかりとチーム全体で共有する必要があります。

 生活行為という言葉が医療と介護の現場を近づけ、本当の意味でのリハビリテーションを促していくきっかけとなることに期待しています。


ー加算について考えるー

 今日は生活行為という言葉を中心に記事を書きましたが、この生活行為向上加算は何を意味するのでしょうか?一昔前の話になりますが、僕が作業療法士として働き始めた十数年前には、ADL加算というものがありました。現在では、この加算は廃止され、別の加算に置き換えられています。

 ADL加算は、訓練室ではなく、病室や病棟で日常生活動作(食事、着替え、トイレに行く練習など)を行った場合に算定できる加算でした。

 「加算」というのは、それを行った場合に追加で診療報酬を上乗せしますよということです。これが何を意味するかというと、そのために国がお金を出すということです。つまり、国として力を入れて欲しい部分が「加算」に当たる訳です。


ー加算はなくなるー

 前述した様に、ADL加算は廃止され、現在は別の形でADLに対する加算が付いています。これは、リハ職がADLに焦点を当てることが根付いてきたから廃止されたと言っても良いと思います。一方で、医療費が大きくなったために早々に廃止されたとも受け取れます。

 また、ADLに対するアプローチは「当然のこと」なので、今度はしっかりと効果を出してね…ということで、前回の医療保険の改定ではFIMを用いた成果指標が出されましたよね。加算や病棟/病院評価基準は時代と共に変化するということですね。

 そう考えると、生活行為向上加算も早々に廃止される可能性があります。加算がなくなると困る人がいるかも知れませんが、 個人的には、生活行為の改善を図ることが当たり前となる日が早く来て欲しいと思います。

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