病院の療法士が生活行為を目標とできない理由

2018年12月17日

 介護保険では、改定がある度に生活行為改善への焦点化が進む一方、医療保険では、FIMの採用程度に留まっています。医療機関からデイケアや訪問リハへと異動になった療法士は「目標に生活行為を挙げなければならないこと」に困惑することも少なくありません。それではなぜ、同じ教育を受けてきた療法士たちが、生活行為での目標設定をすることができないのでしょう。

 まず始めに、誤解を避けるために書いておきますが、病院勤務の療法士全てが生活行為での目標設定をすることができないという趣旨の批判的な記事ではありません。

 私個人が、病院勤務の療法士や介護保険分野へ異動になった療法士から相談を受けることが多いため、上記のタイトルとさせて頂いておりますことをご了承下さい。

 どうしたら生活行為での目標設定が上手く行えるのか?という私見を述べたいと思います。


ー医療機関だから治すー

 皆さんは病院に行く時はどのような時でしょう?

 熱が出た時、お腹が痛い時、身体がだるい時、骨折した時…様々な場合に病院に行きますよね。

 では、なぜ病院に行くのでしょう?

 それは、悪い部分を治すためです。当然と言えば当然のことです。それは、リハビリを受ける際においても同じことが言えると思います。

 また、病院で働く療法士も皆さんと同じ想いで、一生懸命に治すということを行います。治すということは、悪いことではなく、とても良いことです。リハビリをして元通りに動くことができるようになればそれが一番です。

 しかし、念頭においておかなければならないことは、後遺症が残る場合もあるということです。

 これは状態がプラトーで全く改善が認められないということを言いたい訳ではありません。脳梗塞や脳出血などを発症し、数年経過していても、心身機能に改善を認める例は多数あるからです。

 つまり、私が言いたいことは、医療機関に所属する療法士は、治療と言う特性から生活行為の改善に目が向きづらい状況にあるのです。


ー病院勤務の経験しかない、介護保険を知らないー

 一つ目は環境が療法士に与える影響を述べました。次は、療法士の要因について書いてみたいと思います。

 現在、作業療法士に限って言えば、70%以上が医療機関に所属しています(日本作業療法士協会のデータより)。

 医療機関で働く療法士が多いということは、逆に言えば、退院後に在宅で過ごす方の生活を実際に見たことのない人が多数だということです。

 私は講義の際に受講生によく質問するのですが、自分がリハビリを担当した方がどのように在宅生活を送っているかを知っている人は、ほとんどいないのが現状です。

 さらに、介護保険の知識がない療法士も多い。介護保険の改定でどのような変更や新規の加算が設けられたのか、ひどい人では改定があったことすら知らない人もいます(これはさすがにアカン…)

 療法士の要因としては、地域リハビリテーションについての知識が乏しい、在宅生活のイメージができない、介護保険について知らない、退院したら自分と関係ないと思っている(これもかなりアカン…)などが挙げられます。


ー在宅生活を知ることー

 では、どのようにしたら生活行為を目標として設定できるようになるのかということを述べたいと思います。

 個人的に一番効果的だと思う方法は、在宅生活を知るということです。病院に勤めている方であれば、退院後に担当した方のお家に遊びに行ってみるというのが良いと思います。

 病院によっては、私的な交流は禁止されていることがありますので、上司にお伺いを立ててみて下さい。「どうしてもAさんの生活が気になるんです!」と熱く語れば許可が出るかもしれません。もちろん、こっそり遊びにいく手もあります。

 また、習うより慣れろという言葉もありますので、介護保険分野に飛び込むのもありです。強制的に(笑)生活行為での目標設定を迫られますので、良い経験になると思いますし、通所サービスにしろ、訪問リハにしろ、在宅生活を見ることができます。何事も経験に勝るものはありません。


ー経験のある先輩に聞く、仲間を増やすー

 次に効果的だと思われる方法は、経験のある先輩に聞いたり、同じ想いを持つ仲間を増やすということです。一人では難しいことも仲間がいれば上手く行えることがあります。

 聞く相手を間違えると大変なことになりますので、ご注意を。


ー勉強は大事、でもそれだけではダメー

 最後になりますが、自分の行動を強化したり、理論的/論理的に説明したり、組み立てたりするためには勉強することが重要となります。知識は大きな武器となります。

 しかし、勉強で満足して行動に移さない人や、頭でっかちになってしまう人もいます。日々、論文を読んで知識を増やすことは、行動して初めて活かされるものとなります。


ー生活行為の改善が求められる理由ー

 自分が自分らしく生きること、自分が自分らしいと思えること。それがリハビリテーションにおいて重視されるようになっています。

 介護保険は自立支援を掲げていますが、何もかもを自立して行えることが正しくて良いことではありません。誰かの助けを借りても良いのです。

 自分がおもしろい!と思うことをして、楽しく死んでいけることが幸せなのではないでしょうか。

 そのためにも、皆さんが自分らしいと思えること(生活行為)を行えるように、私たちは日々努力していきたいと思っています。