行動変容と作業との結びつき-クライエントの捉え方-

2019年03月18日

 療法士の皆さんは、リハビリテーションを行う際にどのようなことに気をつけていますか?理学療法、作業療法、言語聴覚療法、それぞれアプローチの仕方や考え方も違うもの。でも、チームとして向く方向が同じでなければ最大限の成果は出せません。アプローチの最終目的は、クライエントの行動変容を促し、作業(活動や参加)との結びつきを強めることだと私は考えています。

 残念ながら、在宅で生活する方の中には、外出する機会がなく、自宅で何もすることがないという方は少なくありません。

 無事に病院から退院できたとしても、クライエントの生活が豊かで楽しいものでなければ、リハビリテーションの専門家として関わる私たちも悲しい気持ちになりますよね。

 では、療法士として私たちはどのようにクライエントを捉え、関わり、作業(活動や参加)との結びつきを強めれば良いのでしょうか?


ー療法士としての技能とはー

 療法士としての技能で着目されやすいものは、「専門職として特殊化された技能(specialize)」です。この特殊化された技能とは、各種のファシリテーションテクニックであったり、ポジショニングの技能といった専門的な知識に基づく技能です。

 クライエントが何かをできるようにするために私たちが用いる技能は全部で10あり、特殊化はこの中の一つにしかすぎません。

 ここでは全てを詳しく説明しませんが、吉川ひろみさん(県立広島大学教授;院生時代の恩師)が書いたCOPMニュースの記事が分かりやすく簡潔にまとまっているので引用したいと思っています。

2007年にカナダ作業療法士協会が出版した 「Enabling Occupation II」では,作業療法士 がもつべき10の技能について説明しています。 うまくできるように道具や環境を適応させた り(adapt),本人に代わって代弁したり (advocate),コーチになったり(coach), 一緒に力を合わせて協働したり(collaborate), 相談に乗ったり(consult),関係者の調整を したり(coordinate),計画を立てたり何かを 作成したり(design/build),教育したり (educate),作業と結びつけたり(engage) といった技能です。特定の治療アプローチをす る技能は特殊化された技能(specialize)とし て10の技能のひとつに位置づけられます。ク ライエントと作業療法士がパートナーとなっ て,この10の技能を効果的に使うことを提案 しています。 

引用元:吉川ひろみ:COPMニュース第20号、2009.


ー作業と結びつくことー

 私は、上記の10の技能を用いてクライエントの行動変容を促し、作業との結びつきを強めることを「リハビリテーション」であると考えています。

 行動変容は、文字通り行動を変えることです。今まで行っていたことが病気や障がいで行えなくなった場合、生活習慣が大きく変わります。


 この崩れた習慣を再度習慣として再構成していくために、行動を変えていく必要があります。

 今まで行っていたこと(作業)との結びつきが弱いまま退院してしまうと、生活の再構成ができず、生活不活発の状態になってしまう恐れがあるのです。


 そこで、私たち作業療法士はクライエントの作業について詳しく聞いたり、一緒に目標を立てたり、実際に行ってみたりします。

 例えば、料理をする時に、バランスが悪ければ、バランス練習をすることもありますが、キッチンに寄りかかって作業を行うように提案したり、椅子に座って行うことなどを提案したりもします。

 包丁を使う時に危険を伴うようであれば、スライサーを用いるように提案し、それでも危険があれば包丁を使う工程を家族やヘルパーさんにお願いし、作業工程や作業難易度を調整することもあります。


 そして、実際に作業を行うことは、作業との結びつきを強め、「退院してからもできる」という自己効力感の向上にも繋がります。

 この行動の積み重ねが習慣となり、生活を再構成していくカギとなるのです。


 可能化のための10の技能は療法士に大きな視野と力を与えてくれます。クライエントと協働し、コミュニケーションを取りながら介入することで、リハビリテーションの成果はより高まります。


ークライエントの捉え方ー

 最後に、クライエントをどのように捉えるか?ということを書いて今日は終わりにしたいと思います。

 一般的に作業療法の対象は「作業の行える人」とされています。

 しかし、この言葉通りであれば、「寝たきり」状態である人はクライエントになり得ません。


 ここで一つの疑問が生まれます。

 では、「寝たきり」の方は作業に結びつくことは不可能なのでしょうか?


 実際に自身で何かを行うことは不可能かもしれません。しかし、作業と結びつくことは可能です。

 私がお伝えしたいことは、作業を行うこと(doing)と作業と結びつくこと(engagement)は本質的には異なるということです。


 例えば、ベッドから起きることができない人が奥さんに「庭の手入れをして欲しい」と頼んだとしましょう。

 本人はベッドから起きることができないので、当然、庭の手入れをすることはできません。

 一方で、奥さんが庭の手入れをしている最中に、ベッド上からあれやこれやと指示を出します。そして、庭の手入れを終えると、キレイになった庭を眺めて、本人は満足気です。

 そう、これが作業と結びつくということなのです。実際に作業を行うということとは別に、作業と結びついて離れないということも、もっと注目されるべき視点なのです。


 さらに、別の例では、意識のない寝たきり状態の方とコンサートに行くという目標を立てた場合はどうでしょう?

 この場合のクライエントは、もしかしたら家族になるのかもしれません。


 対象者が長時間の移動に耐えうる体力をつけるために、座位練習をすることなども求められますが、ご家族に車椅子のポジショニングの提案や指導をしたり、介護タクシーなどの社会資源の情報提供、会場の環境を調べたり調整することなども必要です。

 もっと言えば、外出先での吸引方法を検討したり、緊急時の対応をどのようにするかなども相談しておかなければなりません。


 そして、作業の結びつきという観点からも、例え意識のない方であってもコンサートに行って音楽を聴くという作業と結びついていると言えます。(実際に行って聴いているので、doingとも言えなくはないですが...)

 言語での表出が困難なため、感想を聞くことはできませんが、いつもと違う表情をしたり、涙を流したり、手を動かしたりという反応が見られることも実際に多くあります。

 作業と結びつくことは、能動的なものと受動的なものの2側面があるのかもしれませんね。


 今日は少し長い文章になりましたが、クライエントの捉え方や行動変容の促し方をまとめてみました。

 皆さんも様々な技能を駆使して、クライエントの作業と生活をより良いものにして下さいね。