嚥下障害に対する完全側臥位法のご紹介
脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患の後遺症として、嚥下障害が認められることが多くあります。一般的には、座位やベッド上ギャッチアップにて経口摂取の練習を行うことが多いのですが、完全側臥位法は発想の転換により生まれた経口摂取のリハビリ方法です。重度の嚥下障害がある場合は、経口摂取不可と判断される場合がありますが、完全側臥位法により経口摂取が可能となる場合もあるのです。
(文献) 福村直毅:嚥下障害に対する攻めのリハビリテーションー完全側臥位法. 回復期リハビリテーション. p9-13, 2015.
*完全側臥位法の詳細は上記の論文をご確認下さい。また、以下の記事は論文を参考にしております。
ー球麻痺と仮性球麻痺ー
まず、簡単に嚥下障害の違いについてお話したいと思います。
球麻痺とは、嚥下中枢のある延髄の損傷により、飲み込む時の動き(反射)が消失もしくは大幅に弱くなってしまうために起こる嚥下障害です。
仮性(偽性)球麻痺は、大脳から橋(延髄より上の部分の脳)が損傷し、高次脳機能障害や口腔内と喉の動きの悪さ・タイミングのズレにより起こる嚥下障害です。
ー仮性球麻痺の場合は嚥下運動以外の時間を重視ー
仮性球麻痺の場合、声門閉鎖不全は稀であるため、嚥下運動以外の時間を重視する分析が必要です。つまり、食べ物がどのように咽頭喉頭を流れ、どの程度嚥下後に残留するのかを知る必要があるのです。
そこで、福村先生は「咽頭喉頭の立体構造に注目し、咽頭喉頭の立体構造はその内腔に安全に食材を貯留できる」という仮説を立てて、貯留容量の計測を行いました。
その結果、側臥位で最も貯留量が多くなることが分かりました。
ー発想の転換ー
一般的には、嚥下後に咽頭喉頭に食べ物が貯留していることはあまり好ましくないように思えます。しかし、発想を転換して「側臥位では安全に咽頭喉頭に食材を貯留することができる」ということを検証することで、不要な誤嚥を防ぐことができると分かったのです。
これがどういうことかと言うと、座位では、流動性の高い食べ物は重力方向に流れるため、嚥下反射が起きる前に気管に侵入してしまうリスクが高く、嚥下前に誤嚥を起こす可能性が高いということです。
福村先生の提唱する完全側臥位法では、重力は咽頭喉頭の側面に働くため、許容量を超えない限りは、嚥下時以外に勝手に気管へ進入することはないのです。
また、先にも述べていますが、仮性球麻痺の場合は、声門閉鎖不全は稀のため、嚥下時には声門が気管への誤嚥を防いでくれます。
そして、最後には咽頭残留物を洗い流すために「フィニッシュ嚥下」をとろみ水などで行うそうです。
ー食を楽しむことは生活を豊かにするー
在宅で生活している人やご家族の多くは、美味しいものを食べたい、食べさせてあげたいという気持ちが強いと思います。「一口だけでも何か食べることができれば…」と悩まれている方もいると思います。
私が以前担当していた人にも、「一生何も食べられない」と宣告された方がいらっしゃいましたが、在宅医や看護師、ご家族と協力して嚥下リハビリに取り組み、とろみのある物を食べることができるようになった方がいらっしゃいます。
主な栄養は胃ろうからでしたが、ビールや日本酒にとろみをつけて飲み、刺身を食べた時(食べやすいように処理済)は本当に嬉しそうでした。食を楽しむことは誰にとっても幸せを感じる時です。この喜びを一人でも多くの方に届けることができるように、この記事がお役に立てれば幸いです。
最後に、この論文は当社の自費リハビリをご利用のご家族様に頂いたものです。貴重な情報提供をありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。
当事者やご家族様は本当に必死の思いで情報を集め、患者会や家族会に参加し、情報交換を行っています。セラピストも常に知識をアップデートして、より良いリハビリを提供できるように努力していかなければなりませんね。