リハビリ小説-閉ざされた世界編6-

リハビリ開始の面接を終え、次の訪問の際に久は自分のパソコンを持ってくることを約束した。
面接を終えると、まずは本人のしてみたいことを優先し、実際にどの程度上手く行うことができるかを評価することになる。作業療法では、これを【遂行評価】と呼ぶ。
「美宏さん、それではパソコンの操作練習をしてみましょう。」
久はそう言うと、持参したパソコンをテーブルの上に置いた。
悪性関節リウマチの進行状況から、ベッドを高く起こすことは困難であった。
それに加え、美宏の手はムチランス変形*が進み、マウスを持つも容易では無さそうだと予測できる。
*ムチランス変形とは、指の関節に繰り返し炎症が起きることで骨が破壊され、関節が不安定になった状態を指します。骨が破壊されているため、指が短くなったり、一般的な関節可動域を超えた動きが認められることがあります。
「ベッドを起こすことが難しいので、テーブルの上にパソコンを置いて、画面が見えるように調整しますね。この位置で画面は見えますか?」
『はい、見えます。』
「この位置にパソコンを置くとキーボードの操作ができません。なので、画面上にキーボードを表示してみます。」
久はパソコンを操作し、ディスプレイにキーボードを表示した。この方法を取れば、直接キーボードに触れなくとも文字入力が可能だ。
「では、マウスを操作して文字入力の練習をしてみましょう。」
久は遂行評価を行いながら、パソコン操作練習を開始することにした。