リハビリ小説-閉ざされた世界編4-

「悪性関節リウマチかぁ」
「基本動作とADL*は全介助状態で、病気の症状も進んでいるみたいですね。」
*ADLとは、食事をすることやトイレに行くこと、お風呂に入ることなどの日常生活動作のことを指します。
久(ひさし)はカルテを見ながら美宏の状態を確認している。
書面から得られる情報では、在宅生活はかなりシビアな状況のようだ。
『美宏さんは最近、本当に気持ちが落ち込んでるのよ。身の回りのことが自分でできないことに対して、悔しさを感じてたり、人に介護をしてもらう罪悪感を感じてるみたいなの。私、この悪循環を何とかできたらって思って』
事務所に戻ってきた京子は、早速、作業療法士の久に今日の出来事を話していた。
『パソコンがしたいって言ってるんだけど、上手くできないかな?美宏さんがやってみたいって思えることを叶えられないかな?』
一瞬、事務所の中を静寂が包んだ。
ベッドで寝返りすらできない人が、パソコンをすることができるのだろうか。誰しもがそう思ったはずだ。
数秒後、口を開いたのは久だった。
「分かりました、パソコンができるように工夫してみましょう。一度、美宏さんに会ってお話をさせて頂いてもいいですか?したいことをできるようにするのが、僕の仕事なので任せて下さい。」
久はニヤッと笑いながらそう答えた。