リハビリ小説-閉ざされた世界編15-

美宏は久の顔を見るや否や大粒の涙を流した。この状況に久は動揺を隠せず、事態を飲み込めないでいた。
「美宏さん、どうしたんですか?どこか具合でも悪いですか?」
こんな簡単な言葉しか久は思いつかなかった。しばらくの沈黙の後、美宏が口を開いた。
『私、ブログをやめることにします...』
「え...?」
今度は、声を発することで精一杯だった。
美宏はことの顛末をゆっくりと話し始めた。ブログを通じて寄せられた障がい者への偏見、一方的な心無い言葉、生きることの否定...。それはとても人に向かって投げかけられるものではなかった。
久は話を聞き、ブログを続けようという提案は到底できなかった。ただただ美宏の話を聞くことしかできないでいた。
美宏と久は、この出来事を通してインターネットの負の面を痛いほど経験したのであった...
その後、美宏はブログの更新を止め、ネットサーフィンを楽しむことや動画を見ることなど、別の方法でインターネットを使用することにした。
ブログを止めて一ヶ月ほどが経過していた。その間、美宏はブログのことには触れようともしなかった。
久も作業療法を行う中では、ブログの再開には一切触れず、美宏から聞かれたインターネットの使用方法についての疑問に答えたり、ベッド上での動き方の練習などを行った。
しかし、どことなく美宏に元気が無く、ブログを行っていた時の様な笑顔は見られなかった。
健常者から寄せられた罵詈雑言に、美宏の心は閉ざされてしまったようだった。
「時間が解決してくれるまで待つしかないのかな...」と久は考えていた。
それからさらに数週間後。
美宏の口から思わぬ言葉が飛び出してきた。
『私、このままじゃダメだと思いました。皆に元気を貰った分、私も元気を届けたり、誰かの助けをしたいです。寝たきりだけど、私もブログを通してできることがあると思います。』
美宏の心の傷を癒したのは、病気や障がいを抱えながら生きる人たちの暖かい言葉やメッセージだった。